雨のち植える

うぇるあめの雑記帳

pop'n music「フォークロック/面影橋」の地を訪ねる

自分が乗換のためによく訪れる王子は、路面電車が走る街として知られている。東京に残る唯一の都電、荒川線だ。

今日は音楽ゲームにまつわるとある地を散歩するため、早稲田方面の電車へと乗り込んでみた。地域柄なのか乗客はお年寄りの方々が中心で、自分と同じくらいの若い学生2~3人の姿も見られた。

一両編成の車体は数々の大きな窓ガラスに囲まれており、差し込む陽光が車内を明るく照らす。やたらと大きな揺れや、車との兼ね合いですんなりとは進まない道中など、普段乗る電車とはすこし違う感覚だ。



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終点のひとつ前の駅、面影橋駅で降りる。降車場は神田川沿いの大通りのなかにある。


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駅を降りるとすぐ先に見えるこの小さな橋が、面影橋。川の上に高く架けられた車通りの少ない橋だ。周囲には多くの住宅が立ち並び、あたりに物静かな雰囲気を醸し出す。

アーケードの音楽ゲーム「pop'n music」には、その名の通りこの橋をイメージした『面影橋』という楽曲が存在する。ジャンルはフォークソングで、スライドギターの音色とそれに合わせた二重配置の譜面が特徴的な曲だ。
中難易度ということもあり決して有名な曲ではないが、その味わい深い歌詞やサウンドは多くのポップンプレイヤーから愛されてやまない。かくいう私にとっても、この面影橋ポップンで最も好きな曲の一つである。

この曲の中で歌われているのは、かつての"君"との別れを思い出す主人公の姿。風とともに少しずつ薄らいでいく思い出への感傷が、美しく切ない言葉で描かれる。
聴いているうちに自分自身の記憶も次々掘り起こされていく感じがして、それがまた切ない。「顔も声も名前も 忙しい日々に紛れて いつかみんな 忘れてくのでしょうか?」の歌詞を聴くたびに、胸が締め付けられる思いがする。


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写真でもわかる通り、いざ現実で目の前にする面影橋は実に簡素だ。神田川には他にも似たような橋がいくつか架けられており、この橋自体になにか特別な特徴があるわけではない。川の流れもゆったりと穏やかで、実にのどかな場所だった。
こうしたともすれば日常に埋もれるような風景だからこそ、歌詞に綴られた物語はより自分にとって身近に感じられる心持ちがした。

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橋の解説


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音楽ゲームの公式サイトには、しばしば収録楽曲に関する制作者コメントが掲載されることがある。
pop'n musicの過去作品の公式サイトは、残念なことに現在そのほとんどが閲覧不可能となっている。しかしながらInternet Archiveに保存されているページも多く、『面影橋』の制作者コメントもちょうどスナップショットが残っている。
web.archive.org

コメントでも繰り返し語られている通り、この曲には何層にも重なる作り手の熱いノスタルジーが詰まっている。

作曲者のwac(猫の仮面のおじさん)は早稲田大学の出身で、都電で通学していた時期にたびたびこの駅を訪れていたそう。「当時の気持ちを思い出さねば!と久しぶりに大学侵入したり周りうろうろしてみたりしました」という文がまた、薄れゆく過去を思う曲中の物語と重なってあたたかい。
他にもフォークロックという好きなジャンルが十年越しにゲーム音楽と結びついた話や、大学つながりのメンバーと制作を行った話など、様々な過去が混ざり合っていく様子が語られる。こうした作り手の心情を知ることもまた、楽曲と目の前の景色との関係をいっそう魅力的なものに見せてくれる。


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神田川は桜の名所であり、春になると美しい桜並木が楽しめるそうだ。今は12月なので、残念ながら桜が咲いた光景は見られなかった。

曲コメントで「とりたてて何もない」と言われているこの場所ではあるが、大通りに面していることもあって街には確かな賑わいがある。あてもなくゆったりとした散歩がしたい方は、是非"聖地巡礼"がてら訪れてみてはいかがだろうか。